いよいよ消費税の増税まで、残り数ヶ月となりました。この10月に見込まれる消費税の増税は、現時点(※1)の不動産市場にどのような影響を及ぼしているのか、また消費税増税後の不動産市場はどうなることが予想されるのか、不動産の専門家であり、日本のホームインスペクションの第一人者である株式会社さくら事務所創業者・会長の長嶋修(ながしま・おさむ)さんに伺いました。

※1.2019年5月時点

 

――今秋に予定される消費税増税は、現時点の不動産市場に、どう影響していますか?

 

「私の個人的な意見としては、今回の消費税の増税は行われない、と考えています。今の景気の状況では、なかなか難しいのではないでしょうか。それはさておき、消費税の増税が行われるという前提でお話しすると、現時点の不動産市場に消費税増税の影響、いわゆる『かけこみ需要』と呼ばれる動きはほとんど見られません。これは新築物件・中古物件・マンション・戸建すべてで共通しています。不動産の売却・購入を検討されている一般の方は、ほとんど気にされていない印象です」

 

――ほとんど影響が見られない……その理由はなんでしょうか?

 

「まず、今回は政府が消費税の増税による『かけこみ需要』と『反動による需要落ちこみ』が生じないよう、『すまい給付金』や『住宅ローン控除期間の延長』といった施策を取っていることが大きいと思います。たとえば住宅ローン控除は現在『10年間』の控除期間が『13年間』に伸ばされ、多くの人の場合、計算してみると『増税後』に購入した方がトクになります。今回の消費税増税では、多くの方がこのような状況を理解されているのではないでしょうか。つまり、増税前にあわてて不動産を買わなくても良いということが、前回や前々回の増税時より、認知されているのだと思います。

 

また、ほとんどの中古マンション・戸建の場合、個人間の取引となるので、物件価格に消費税がかかりません(法人が売主の場合は消費税がかかります)。つまり消費税の増税が影響するのは不動産会社に支払う仲介手数料だけですので、特に中古の不動産市場には、消費税増税の影響は見られないと言えますね」

 

――ちなみに、前回、前々回の消費税増税の影響はどの程度だったのでしょうか?

 

「不動産の場合は契約から引き渡しまでの間にタイムラグがあり、データの取り方によって色々な数値が出てしまうのですが、前回、前々回の消費税が増税されたあと、おおよそ不動産市場全体で5〜10%程度マイナスになった、と言われています。ただ、これは増税の直接的な影響というよりも、『消費税の増税により景気が落ち込んだ影響』と考えてください。政府が発表した景気動向指数のグラフの動きを見てみると、1997年と2014年の消費税増税後、景気動向指数が5%くらい落ちています。不動産の場合は景気の影響がもう少し大きく出るので、5〜10%ほど落ちこんだイメージです」

 

――では今回、消費税の増税が行われた後の不動産市場はどうなるでしょうか?

 

「前回、前々回の増税後の落ち込みは、『増税直前の駆け込み需要』と増税後に景気が悪化したことによる『消費者マインドの冷え込み』が原因です。今回は駆け込み需要が起きていませんから、不動産市場の動向は増税後の景気次第でしょう。景気が不動産市場に影響する理由は、それが消費者マインドに影響し、たとえば長期の住宅ローンを組むかどうか、という意欲に繋がるからです」

 

――消費税増税を念頭に、不動産の売買を検討している方へアドバイスするなら?

 

「消費税の増税よりも、不動産の売買で考えるべき大きなトレンドがあります。たとえば都心の中古マンションの価格は、日経平均株価の動きにほぼ連動しており、その都心の中古マンションの価格上昇に引きずられるように、神奈川・千葉・埼玉の中古マンション価格も上昇してきました。しかし、その上昇幅は2012年の政権交代以降、都心の中古マンションが1.7倍くらい上昇したのに対し、1.2倍前後の上昇です。さらに、中古戸建や住宅用の土地価格はほとんど変化していません。このような不動産価格の動きの根底にあるのは、『マンションか戸建か』という分類ではなく、『駅からの距離』だと思います。多くの人が利便性を求め、より都心に近いエリアを希望し、また駅から徒歩15分〜20分かかることを嫌っている(戸建はこれくらいの距離の立地が多い)傾向が読み取れます。その背景にあるのは、年々低下している『自動車の保有比率』や、『共働き世帯』が増え続けていることなどでしょう。『高齢者層』も、郊外の戸建から都心や駅前のマンションに引っ越すようになりました。すべての世帯が利便性を求めるようになったために、このようなトレンドが起きているわけです。それは消費税の増税というイベントよりも、大きな影響を不動産価格に及ぼしています。

 

ですから、今回のテーマで言えば、消費税の影響が最も小さいのは『都心のマンション』・『駅近のマンション』であり、消費税の増税に伴う景気悪化の影響を一番受けるのは、『郊外の駅から遠い戸建』となるでしょう。日本の人口はこれからどんどん減りますが、人間がいなくなるわけではありません。1億2千万人が9千万人になるだけで、ますます人の密度が増すために中心エリアの価格は横ばい、または上昇し、その代わり不便な場所はとことん価格が下がっていくことになります。消費税の増税とは関係なく、ずっとそんなトレンドが続いているのです」

 

長嶋さんが強調されていたのは、「消費税の増税そのものを気にする必要はなく、それよりも価値の落ちない・落ちにくい物件を選びましょう」ということ。たとえば3000万円の物件を買って、10年後に3000万円で売れれば最高ですが、1000万円でしか売れなければ「消費税の増税の前か後かというタイミングに関わらず大きな損失になりますよ」ということでした。

 

なお、このようなお話を長嶋さんが講演などでされると、「マイホームは一生売らないから、10年後の価値なんて気にしない」という人がいるそうです。しかし、実態はそうでもなく、誰でも転勤や親との同居など、いろいろな理由からマイホームを売却することはあり得るとのこと。それを裏付けるように、実際に現在売りに出されている中古マンション・戸建の25%は「築10年以内」だそうです。いざと言うときに、売却しても住宅ローンの残債が残ってしまうようでは、身動きが取れなくなってしまいます。住宅購入を検討されている方は将来の価値をしっかり考慮し、売却を考えている方は冷静に所有する物件の価値を見極め、もし駅から遠いなど不便な物件の場合は、適正な価格で早期に売却を検討した方がいいかもしれませんね。

 

 

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<取材協力>

 

株式会社さくら事務所

創業者・会長

長嶋 修(ながしま おさむ)さん

 

不動産コンサルタント

国土交通大臣認定 公認不動産コンサルティングマスター

宅地建物取引士

 

1999年、『人と不動産のより幸せな関係』を追求するために、業界初の個人向け不動産コンサルティング会社『株式会社さくら事務所』を設立する。以降、さまざまな活動を通じて『第三者性を堅持した不動産コンサルタント』第一人者としての地位を築く。マイホーム購入・不動産投資など、不動産購入ノウハウにとどまらず、業界・政策提言や社会問題全般にも言及するなど、精力的に活動している。著書・マスコミ掲載やテレビ出演、セミナー・講演など、実績多数。

 

著書:

「住宅購入学入門 – いま、何を買わないか」(講談社+α新書)

「なぜ『耐震偽装問題』は起きるのか」(講談社+α新書)

「空き家が蝕む日本」(ポプラ社)

「不動産格差」(日経プレミアシリーズ)

「100年マンション 資産になる住まいの育てかた」(日経プレミアシリーズ )など

 

公式サイト:https://www.sakurajimusyo.com/

 

 

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